以前私の持っているフィルムカメラの中からNikon F4についてレビューしましたが、その後も順調に増え続け(汗)既に20台以上になったフィルムカメラの中から、今回はNikomat FTnについてレビューしたいと思います。
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Nikomat FTnが発売された時代
FTnの発売は1967年10月と今から50年以上前のこと。
当時のニコンは1959年に発売し、カメラの主流をレンジファインダーから一眼レフに変えるきっかけになったとも言われるプロ向け一眼レフカメラ、ニコンFの世界的大ヒットにより高級機の分野では他社の追づいを許しませんでしたが、それに反して中級機以下にはこれといったヒットカメラがなく、ペンタックスSPなどに大衆機市場を席巻されていました。
そんな時期に登場したこのNikomat FTnが大ヒット!プロやハイアマチュア以外にもニコンのカメラが普及するきっかけになりました。
そうそう、このNikomat(ニコマート)と言う名前について簡単に触れると、当時のニコンはプロやハイアマ用の高級機以外にNikon名を付ける事を許さず、大衆機にはNikomat名を与えていたのです。
話を戻すとこのNikomat FTnの発売以前の1965年このカメラのベースになったNikomat FTが発売されます。
この時期は1963年に東京光学(トプコン)から発売されたトプコンREスーパーを皮切りに、翌1964年に発売され大ヒットしたPENTAX SPなどTTL測光方式の露出計を搭載したカメラが相次いで発売されました。
そして1965年発売のNikomat FTにも当然のようにTTL測光の露出計が搭載されます。
ところでこのTTL測光とはどの様な方式なのしょうか?
TTL(スルー・ザ・レンズ)測光、とは簡単に言うとレンズを通った光で露出を測る、当時最新の測光方式です。
このTTL測光方式が開発される以前の露出計内蔵カメラは外部露出計方式と言って、露出計とカメラの絞りやシャッタースピードが独立していて、露出計で測った値を見て撮影者が絞りなどを設定する必要がありました。
簡単に言えば単体露出計がカメラにくっついているだけって感じ。
対してTTL露出計方式のカメラはレンズを通った光を測光するので、カメラの設定がそのまま露出に反映されます。
ただしTTL測光方式には大まかに分けると二つの方式がありました。それは絞り込み測光と開放測光方式です。この二つ、どちらが優れているかと言えばやはり開放測光方式でしょう。
それは何故か?
同じTTL方式でも絞り込み測光のカメラでは例えばF8で撮影したい時、その名の通りレンズの絞りを実際にF8まで絞り込んでその光を測ります。
この時何が起こるのか?
絞り込まれるのだからレンズの絞り穴が小さくなってファインダーがとても暗く見にくくなる事は何となく分かると思うけど、それだけでなく絞られることによって被写界深度も深くなりピントの山も掴みづらくなるのです。
簡単に言えばピント合わせが絶望的にやりづらい。
だから絞り込み測光のカメラの場合は、まず絞り開放の明るいファインダーでピントを合わせてから実際に撮影する絞り値に絞り込んで撮影するなどとても手間がかかりました。
そこで、絞りリングを動かしても、実際の絞り羽根は開放のままにして、カメラ本体にデータとして絞り値を伝達することで、ファインダーが暗くならずに済む機構が生み出されました。
それがFTの搭載したTTL開放測光方式なのです。
TTL開放測光とNIKKOR Autoレンズ
Nikomat FTnの話をする前に、もう少しだけFTの話をさせて下さい。
絞り込み測光の場合は実際にレンズの絞りを撮影する絞り値まで絞り込み、その状態でレンズから入ってきた光を測るのでカメラ側(の露出計)にレンズの絞り値を伝えなくても露出を測れますが、開放測光の場合は先ほども書いた様に絞りリングを動かしても、実際の絞り羽根は開放のままなので、レンズの開放F値と現在のF値を何らかの方法で必ずボディの露出計に伝えなければ露出を測ることが出来ません。
その為にニコンが開発したのがボディ側に絞り連動ピン、レンズ側にいわゆるカニの爪の付いたNIKKOR Autoレンズです。
これで絞り開放の明るいファインダーで露出も測れてピントも合わせられる素晴らしい方式が完成した…とはまだ言えませんでした。
何度も書いているようにTTL開放測光のカメラではレンズの開放値を必ずボディの露出計に伝えなければなりませんが、このFTはその開放絞り値を手動で設定しなければならず、例えばF1.4のレンズを外してF2.8のレンズを装着し、絞り値を設定するのを忘れたまま撮影した場合カメラの露出計はF1.4のレンズだと思って測光するので露出が大幅にずれ、この場合は2段アンダーになってしまいます。
そんな失敗を防ぐ為、レンズの解放値を比較的簡単にカメラに伝えれられる機構が開発されました。それがいわゆる「ニコンのガチャガチャ」方式で、その機構を初めて搭載したカメラが今回ご紹介するNikomat FTnなのです。
Nikomat FTnそのレトロで魅力的な外観と使い方
付いているのはFTnと同時代の「NIKKOR S.C Auto 50mm f1.4」先ほど出てきたNIKKOR Autoレンズです。
ニコンのガチャガチャとカニ爪レンズ
先ほども書いたように開放測光を実現するためにはレンズの絞り値と現在のF値を何らかの方法でカメラボディ側に伝えなくてはなりません。
それに対してのニコンの解答がボディ側のマウント部にピン、レンズ側に絞りリングと一緒に動く部品、通称カニ爪を取り付け、そのカニ爪でピンを挟んで絞りリングを動かすとそれに連動してピンも動き、その動いた距離によって絞り位置を伝える方式。
この開放F値をFTでは手動で設定していましたが、FTnでは半自動化を実現。そのために考え出されたのが通称ニコンのガチャガチャ方式です。
具体的には、以下のように行います。
レンズの絞りリングをF5.6にして爪の中央のスリットにピンを噛み合わせる様にしてボディに嵌めます。
そのまま噛み合ったピンとカニ爪がボディの中央にくる様にレンズを回して取り付ける。
絞りリングを最小絞り(F16やF22など)まで回し、そのまま絞りリングを開放(F1.4やF2)まで回す。
つまり、レンズを取り付けるときに、絞りリングを最小絞り〜開放と往復させる事で開放F値を伝えます。このときに、内部機構がガチャガチャと音を立てるので、ニコンのガチャガチャと通称されるようになりました。
成功すると写真の位置にある指標に赤い印が現れます。今回はF1.4のレンズを使ったので1.2の少し先に印が現れました。
ちゃんと出来ているか不安な時はこの印を確かめましょう。
レンズマウント基部にあるシャッターダイヤル
多くの一眼レフカメラのシャッタースピードダイヤルはボディ右手側上部にある事が多い。当時のNikomat FTnのライバル機、minolta SRT-101も写真のようにその位置にダイヤルがあります。
しかしNikomat FTnのシャッターダイヤルダイヤルはご覧のようにマウント基部に有ります。これはコストダウンの為にシャッターユニットを外注したためで、その調達したコパルスクエアSの構造上この位置になったと言われています。
この位置にあるシャッターダイヤルを回しやすくする為にNikomat FTnにはこの様に指当てが付けられています。この場所はカメラを構えてレンズを左手で下から支えた時、ちょうど左手の親指が来るのでファインダーを見ながらその親指を使ってダイヤルを回す事ができます。
その為にはファインダー内部にシャッタースピードを表示する必要がありますが、もちろんFTnのファインダーはこのようにクリアにシャッタースピードを表示します。
Nikomat FTnのフィルム装填と取り出し方
これについては動画を作ったのでそちらをどうぞ。
Nikomat FTnのチャームポイントと使い心地
最後にNikomat FTnのチャームポイントと使い心地について書いてみたいと思います。
丸窓のフィルムカウンターと巻き上げレバー
Nikomat FTnのデザインで個人的に一番刺さった箇所はこの丸窓のフィルムカウンターです。レトロな腕時計にも通じるような可愛さと格好良さが絶妙にブレンドされたすごく秀逸なデザインだと思います。
またこれは前期型限定ですが金属削り出しの巻き上げレバーも凄くカッコいいと思う。ただ実際にフィルムを巻き上げる際、この総金属製のレバーは角が指に当たって結構痛いです。
それで私は角を軽くヤスリで磨いてしまいました(汗)
だから使い心地はプラスチックの指当てが付いた後期型の方がいいかもしれません。それでも俺はカッコいいから前期型を選ぶけど(笑)
予備角で露出計ON
Nikomat FTnは色々な意味で露出計がつかいやすいのも利点だと思います。
予備角と言うのは巻き上げレバーを軽く引き出して最初に止まるポイントの事ですが、FTnは巻き上げレバーを予備角まで引き出す事が露出計のスイッチを兼ねているので、別に露出計のスイッチがあるカメラと比べ本当に使いやすいしスイッチの切り忘れも少ないので、一石二鳥だと思います。
またファインダー内に指針式の露出計表示がある(この写真参照)のに加え、軍幹部左側の小さな窓も露出計表示になっていてファインダーを覗く前に露出を合わせる事もできます。
上の写真はレバーを予備角まで引き出して露出計のスイッチが入った状態ですが、この写真と比べて針の位置が真ん中に動いているのが分かると思います。
やっぱりボディの剛性感と精密な動作感が最高です
フィルム装填の動画でちょっと言ったけど、私がこのカメラを始めて触ったのはハードオフのジャンク箱に転がっているボロボロのボディを見つけた時でした。
そのカメラは薄汚れ、おまけにミラーも割れて一部が脱落しお世辞にも良いコンディションとは言えませんでしたが、ボディを握り込んだ時の恐ろしいほどの剛性感、そしていかにも精密な機構が動いていると感じさせる巻き上げレバーの官能的な動作感。
その作りの素晴らしさにびっくりすると共に感動し、気づいたらメルカリで購入していました。
もちろん届いてすぐにフィルムを通して撮影に出たのですが、ファインダーを覗いてピント合わせをした瞬間、そのピントの山の掴みやすさにまたもや感動を覚えました。
ニコンのカメラは現代のミラーレスカメラでもそのファインダーの見えの良さを多くの人が語っていますが、その伝統はこの時代から培われていたのかと、私の知らぬ歴代の開発者の方に畏敬の念を覚えました。
そうそう、私的に最高の光学ファインダーは同じニコンのF4です。もしかすると俺の目はニコンのファインダーと相性がいいのかな?
まとめ
まとめると、このNikomat FTnはちょっと重いけど剛性感や精密感が中級機としては異常なほど高くファインダーも大きく明るくピント合わせが本当にやり易いカメラという事です。
まだモノクロフィルム一本しか撮っていませんが、別記事でその写真を作例として載せようと思ってますので楽しみにお待ち下さい。
作例記事できました。
それではまた。
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