初代Canon Demiはしっかりした機構と抜群の写りを持ったハーフ版カメラでした

以前、YouTubeで初代Canon Demiというハーフ版のフィルムコンパクトカメラのオーバーホールの様子を2回に分けて紹介しました。今回は、そのカメラで撮影した白黒フィルムのネガをデジタルデュープでデータ化し、その作例を紹介したいと思います。しかし、その前にまずこのカメラについて簡単にご紹介したいと思います。

Canon Demiはどんなカメラ?

キヤノンミュージアムによると発売は1963年(昭和38年)2月で、発売時の価格は10,800円になるようです。これを書いているのは2023年ですから、ちょうど60年前に発売されたカメラになるんですね。

そしてネーミングに使われているDemiと言う単語はフランス語で半分という意味で、その名の通り、このカメラは普通の35ミリ版の半分のフィルム面積で写真1枚を撮影出来るようにしたハーフ版のカメラです。

このジャンルでは以前このブログでもご紹介したOLYMPUS PENシリーズが有名ですね。

外観とスペック表

表面1
表面2

私のDemiは前述したオーバーホール時に前面の貼り皮を剥がしてしまったのですが、オリジナルは標準の黒の他にフランスのトリコロールカラーから取った赤、青、白のモデルもあったようです。

そのデザインは角を全て丸めた優しい雰囲気で、当時は少なかった女性のユーザーも狙っていたと感じます。

型式35mmレンズシャッター式ゾ-ンフォーカス・ハーフサイズカメラ
画面サイズ24×18mm
標準レンズSH28mm F2.8(3群5枚構成)
シャッターセイコーシャL、ライトバリュー・プログラム式、EV8(1/30秒、F2.8)~17(1/250秒、F22)とB、 ビハインド式、フラッシュシンクロはX接点式
ファインダーケプラー型実像ファインダー、倍率0.41倍、視野率90%
焦点調節レンズのフォーカシングリングによるゾーンフォーカスマーク式、0.8~15m(∞)、1・3・15m位置に近・中・遠距離を表すピクトグラフ付き
露出調節セレン光電池式露出計の指針位置に追針を合わせる追針合致式、適正のシャッタースピード値と絞り値 の組み合わせが決まるプログラム式、測光連動範囲=EV8~17(ISO 100)、フィルム感度使用域 =ISO 10~400
フィルム装填・給送裏蓋開閉スプール差し込み式、上部レバー145度回転(予備角20度)、小刻み巻き上げ可能
フィルムカウンター裏蓋開放に連動して自動復帰する順算式
フィルム巻き戻し上部回転クランク式
大きさと質量115×68×37mm、380g
キヤノンミュージアムより引用

撮影フィーリング

このカメラは、軽量でレンズ部分の出っ張りも少なく、カバンやポケットへの収まりがいいので気軽にどこへでも持ち運べます。

上面

また、外観写真からも分かるように、フィルムの巻き上げにレバータイプを採用していますが、この機構部にオイルを注し、しっかりとメンテナンスすることで、ジャンクで購入した直後のギシギシしたフィーリングが一転して、とても滑らかな巻き心地になりました。

本当に素晴らしいフィーリングになるのでこのカメラを持っていて巻き上げ感触に不満のある方は私の動画を参考にぜひメンテナンスしてあげて下さい。

もちろん自己責任でですよ^^;

ファインダー

ケプラー型ファインダ図面

ニコマートMLより引用

ファインダーにも手の込んだケプラー型実像ファインダーが採用されています。この方式は、鮮明な像を得やすいことで知られていますが、対物レンズと接眼レンズの両方に凸レンズが使われるため、像の上下左右が反転してしまいます。

そのためプリズムを使って反転像を正立像に戻すのですが、そこにもしっかりとしたガラス製のプリズムが使われており、直線なども歪まないしっかりした見え味になっています。

ただし、視野はやはり狭く、また経年劣化で接眼レンズが曇っている個体も多いので、特にジャンクを購入する場合はしっかりチェックしましょう。

レンズとピント合わせ

レンズはSH28mm F2.8(3群5枚構成)が採用されており、このレンズは、トリプレットの発展型であるヘリアータイプのレンズ構成を持つと思われます。また、ハーフ版のカメラであるため、35mm換算は1.4倍になり約39mm相当の画角になります。

裏面

ピント合わせはゾーンフォーカス方式で最短撮影距離は0.8m。目安として人物一人(1m)人物三人(3m)山(15m)のピクトグラムが描かれています。

露出の合わせ方

このカメラの前面にはセレン光電池タイプの露出計が内蔵されているので、一見するとOLYMPUS PEN EEのような自動露出タイプのカメラに見えますが、実はそうではありません。

露出計窓

使い方はカメラ上部にある露出計の窓の中に、明るさによって動く細い針と、レンズの一番外側のリングを回すと動く太い針が有り、その2本の針が合わさったところで露出が合うという、言ってみれば手動式プログラムAEのような方式を採用しています。

この方式、露出計がしっかり動いていれば割と簡単に露出を合わせる事が出来るので、これから購入する方はその部分をしっかりチェックしましょう。

そして、私のように露出計の動かない個体を手にしてしまった人は…

単体露出計を使ってマニュアルで露出を合わせれば良いと思うかもしれませんが、そうは問屋が卸さないんです。

前述のようにレンズ周りのリングを回して露出を決定するのですが、その時に1/30秒 F2.8から1/250秒 F22まで、シャッターと絞りが同時に変わるんです。

しかもシャッタースピードのメモリは1/30秒と1/250秒だけで、その間はありません。

これでは正確なシャッタースピードが分からないので、露出計で測ったところで、勘で合わせるしかありません。

それでは余りにも使いにくいので、露出計で測る事ができるLV値(ライト・バリュー)とDemiのF値の換算表を作りましたのでよろしければ参考にしてみて下さい。(あくまでも参考ですよ(笑)

LV (EV)89.51112.51415.5
F値2.84.05.68.01116

私はこの数値をボディの裏に紙で貼って参照しています^^;

作例紹介

使用フィルムと現像環境

使用したフィルムはARISTA EDU100というISO100の白黒フィルムでその中身はFOMAPAN 100と同じと言われています。

現像はRodinal(1+50) 20℃ 9分で自家現像し、このブログで紹介している方法でデジタルデュープしました。

撮影状況とカメラ設定

今回使った作例のほとんどは冬の日の晴れた明るい日中に撮影を行いました。

単体露出計

その状況のLV値は大体14辺りになるので、マニュアル露出が使えるカメラの場合は上の画像に書かれた基準で露出を決められますが、このカメラの場合はそれが出来ないのでLV14になる設定のF11(換算表参照)で撮影する事が多かったと思います。

もちろん状況に応じて調整しますが、基本的にはかなり絞り込まれていますし、ハーフ版はもともと被写界深度が深いので、ほとんどの写真がパンフォーカスになっています。

横構図の写真5枚

ハーフ版カメラは普通に構えると縦構図になるので、どうしても横写真は少なくなってしまいます。スマホに慣れた若い人にはそんな点でも撮りやすいのかな?

横構図-1

逆光気味なので少しフレアが出ていますが、それでも十分にコントラストを保っています。

横構図-2

順光で公園を撮影した一枚。画面奥の住宅の解像感がハーフ版とは思えないほど凄いです。

横構図-3

画面左からのサイド光が団地のベランダや窓の反射していますが、その光の様子がよく分かります。

横構図-4

これも解像感を見て欲しい一枚。枯葉の一枚一枚が解像感豊かに描写されています。

横構図-5

典型的な町スナップ。ハーフ版カメラはフィルム枚数をあまり気にせずこういった写真をどんどん撮れるので、スナップが楽しくなりますね。

縦構図の写真17枚

縦構図-1

ド逆光なのでフレアやゴーストが出まくりですが、それが返って小春日和の雰囲気を醸し出しています。

縦構図-2

近所にある団扇サボテン。メチャクチャ大きく育ってます(笑)

縦構図-3

雲の陰影や電線もしっかり描写されています。

縦構図-4

こちらも逆光気味の写真。坂の上あたりはフレアっぽいですが、その他のところは十分コントラストが出ています。

縦構図-5

最近少なくなった電話ボックス。いつか無くなる時が来ると思うので、見かけたらなるべく撮影するようにしています。

縦構図-6

バイクを狙って撮りましたが、ピントをミスって団地の壁面に合ってしまいました。ゾーンフォーカスなので近い所にピントを合わせるのはやはり難しいです。

縦構図-7

夕暮れ時の光景。シャドーとハイライトをしっかり描き分けています。

縦構図-8

誰もいない公園のベンチ。これも少しベンチからピントを外していますが、逆に柔らかい描写になったかな。

縦構図-9

細長い葉っぱを陰影深くシャープに描写しています。

縦構図-10

細い電線も画面奥の方まで方までしっかり解像してます。このレンズの解像感はやっぱり凄いですね。

縦構図-12

日向ぼっこする老夫婦?ひだまりの暖かい雰囲気がよく出ています。

縦構図-14

陽の高い時間のクッキリした影と葉の落ちた桜の枝をしっかりと描写しています。

縦構図-15

温室のあるオシャレなお家。自転車などの細かい部分もちゃんと描写されています。

縦構図-16

ステンレスのシンクにシンクに陽のあたる様子。金属のギラっとした反射光を見事に描写しています。

縦構図-17

はためく幟にピントを合わせましたが、これはしっかり合ったかな。晴れた空のグラデーション描写も見事です。

まとめ

このカメラはCanonにとって初めてのハーフ版カメラになりますが、そこは後出しのキヤノン(笑)機構やレンズにお金の掛かった、とても気合の入ったカメラです。

特にレンズのシャープさとコントラストの高さは素晴らしく、一見すると35ミリ版と遜色ない描写です。

今回は白黒フィルムなのでカラーフィルムで撮影した時の発色は分かりませんが、このカメラが発売された1963年と言えばそろそろカラーフィルムが普及し始めた年代なので、白黒だけでなくカラー撮影も見越して設計されたはず

最近カラーネガの高騰がすごいので、描写に不安のあるカメラにカラーフィルムを詰めるのはかなり躊躇しますが、このカメラなら大丈夫そう。

最近話題のMARIXフィルムの24枚撮りでも詰めてみるかな。

それではまた。

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