現在五十代前半の私が若い頃、カメラは一家に一台の高級品で子供が簡単に持ち出して使える物ではありませんでした。
そんな時代の子供や若者の前に現れた救世主が富士フイルムから発売された「写ルンです」。その発売日は1986年の7月1日だったから、ちょうど私が十代後半頃の事でした。
この使い捨てカメラ(と当時は言っていたけど、実際にはリサイクルされている)は瞬く間に大ヒットし、街のカメラ店は当然の事コンビニや駅のキオスク、観光地の売店まで、本当にどこでも買えるようになり、その事によって子供や若者の写真環境を一変させました。
そう、わざわざ親にカメラを借りなくても遊びに行った先でこいつを購入するだけで簡単に写真が撮れるようになったのです。
スマホで写真が撮り放題の今の若者は想像つかないと思うけど、この「写ルンです」が発売される前、写真は一家のお父さんお母さん、学校の先生などの大人が撮影するもので、子供同士が写真を撮り合うなんて事はほとんどありませんでした。
だからこそ「写ルンです」はこれほどまで大ヒットしたのでしょう。
そんな当時(多分90年代半ばごろ)写ルンですで写した写真のネガが数本分見つかったので、とりあえず山中湖に釣りに行った時のネガをデジタルデュープしてここに公開します。
その前に「写ルンです」の概要を少しだけ書いておきます。
ピント合わせが必要ない?「写ルンです」の特徴
「写ルンです」一番の特徴は操作が簡単なこと!
その撮影方法は、まず右手の親指の腹でボディについたダイヤルをジーコ、ジーコと回してフィルムを巻き上げ、シャッターボタンを押す。
以上!
フラッシュが使いたい場合は、ボディ前面にあるスイッチを入れる。パイロットランプが点灯したらフラッシュのチャージが終了した合図なのでシャッターボタンを押す。
本当にそれだけで、ピント合わせも露出の設定も必要なし。
何故そんな簡単に撮影できるのでしょうか?
とにかくまずは「写ルンです」のスペックを確認してみましょう。
フィルム | ISO400 135フィルム |
---|---|
撮影枚数 | 27枚 |
レンズ | f=32mm F=10 プラスチックレンズ1枚 |
シャッタースピード | 1/140秒 |
撮影距離範囲 | 1m~無限遠 |
ファインダー | 逆ガリレオ式プラスチックファインダー |
フラッシュ | 内蔵(有効撮影距離:1m~3m) パイロットランプ付スライド式フラッシュスイッチ |
電池 | 単4形 1.5Vアルカリマンガン乾電池内蔵 |
寸法 | W 108.0×H 54.0×D 34.0mm |
重量 | 27枚撮:90g |
ここで注目して欲しいのが【撮影距離範囲】1m~無限遠 の部分です。この意味はカメラから(厳密にはフィルム面から)1m離れた場所から見えている一番遠いところまでピントが合う(合っているように見える)事を意味します。
だから「写ルンです」はピント合わせをしなくても撮影出来るのです。
例えばすぐ近くを歩いている友達をパシャり、すぐに遠くの風景をパシャり、これだけでOK。簡単ですね。
何故こんな事が可能なのかと言えば、その秘密は搭載レンズにあります。
写真のピントの合う範囲は以下の三点で決まります。
- レンズの焦点距離
- レンズの絞り
- 撮影距離(ピントを合わせる位置)
レンズの焦点距離が短い広角レンズになればなるほどピントの合う範囲(被写界深度)が広く、焦点距離の長い望遠レンズになればなるほど狭くなる。
レンズの絞りは、絞るほど(F11など)ピントの合う範囲が広く、開く(F2.0など)ほど狭くなる。
撮影距離(ピントを合わせる位置)は、遠いほどピントの合う範囲が広く、近いほど狭くなる。
この三つのポイントの中の撮影距離は撮影者が決めるのでカメラ設計者にはどうにもなりませんが、レンズの画角と絞り値はレンズ設計で決められるので、このスペックをピントの合う範囲が広くなるように設計すればピント合わせの必要がないカメラが作れることが分かります。
それを踏まえて「写ルンです」のレンズを見てみると、f=32mmと標準の50mmより焦点距離の短い広角のレンズを搭載し、絞りも f=10と絞り込んでいるのが分かります。
このレンズがピント合わせの必要がない「写ルンです」の秘密だったのです。
その他にもラチチュードの広い(多少暗く写しても、明るく写しても大丈夫)カラーネガフィルムを使用している事など、とにかくほとんどの撮影条件でとりあえず写真が写るよう、絶妙なスペックでカメラが作られているのです。
そう考えると「写ルンです」はなかなか凄いカメラですね。
「写ルンです」で写した昭和の山中湖
写真は全てクリックで拡大します。
夏の富士山を背景にボートを漕ぐのは30年前の私です。やっぱ若いなあ…
友達には一応モザイクを掛けました。
上の写真もそうだけど、湖面の色や空の色がネガフィルムらしい優しい色再現ですね。
バスが釣れてご満悦の私。
サントリーの烏龍茶もこの頃に発売されたと思う。最初はお茶にお金を払うなんてバカらしいと思っていたのに、いつの間にか普通に買う様になっていた。
拡大すると背景の草は流石に解像してないのが分かるけど、縮小すればそれほど気になりません。
湖畔の様子。遠くに白鳥が写っています。
32mmのレンズでここまでアップに写ってるって事は、この白鳥はかなり近くまで来てくれたんだな。
この一枚も、カラーネガっぽさ全開ですね。
それにしても、プラスチックレンズ一枚でなんでこんなによく写るんだろう?本当にビックリです。
逆光だと流石に盛大にフレアが出ますが、これはこれで味のある描写だと思う。
この一枚は同じフィルムに写っていた春の富士山。同じフィルムに違う時期や場所が写っているのも、フィルム写真の楽しさだと思う。
最後の一枚は深夜の山中で写した当時の愛車、ランサーEXターボ(通称ランタボ)の写真。完全な暗闇で写ルンですのフラッシュを使って撮影しましたが、光の届かなかったフロント部分は流石にほとんど写っていません。
まとめ
今回の写真を見て改めて感じる事は「写ルンです」ってカメラ(あえてカメラと書く)やっぱりすげえ!って事。
初期の「写ルンです」は今よりボディが大きかったけど、それでもポケットや鞄の片隅に入る小さくて軽量なカメラがこれだけの写りをする。しかも、写真撮影の知識がほとんどなくてもとりあえず写ってしまう。
コンセプトもそうだし、それを実現した技術も本当に凄いと思う。
こいつを鞄の片隅に忍ばせて常に携帯し、面白い光景や素敵な風景を見つけた時に取り出して撮影すれば、きっとスマホ写真とは全然違う写真が撮れると思う。
それではまた。
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